マイアミ・ニューヨークトラブル紀行③2023年8月16日
マイアミ・ニューヨークトラブル紀行③
運転手は手際よく我われの5つの荷物を後部トランクに乗せてタクシーを走らせ出すと、タクシーチケットを渡すようにと申します。いや、それは持っていないとこちらが申すと、空港タクシーでターミナルを移動する時は事前にチケットを買わなければいけない、と言います。そして、確認を取るから待て、と言うと運転手はトランシーバーで事務局らしき部署と通信を始めました。そして、チケット未購入の客がいるのでこちらで支払ってもらうがいいか、といった許諾を得て、私に支払いはOKかと尋ねるので、私はOKと伝えました。まぁそういうシステムならそれで構わない、という感じですね。
予想以上に距離のあったターミナル4に到着し、運転手から請求額を聞き、初めてタクシーにメーターがついていないことに私は気づきました。不覚にも乗ったのは違法な白タクでした。
Uberで呼ぶタクシーはUberと契約した個人が自家用車で業務を行うことも多く、その車にはメーターはついていませんが、空港で客待ちするタクシーにUberはいませんね。
それにしても、トランシーバーで通信をし始めるなど、あたかも正規の業務であるような見せかけをして、手口が巧妙です。
実にいまいましいですが、先を急ぐ私は状況を考え、損切りの判断をして、請求額よりは相当額少なく、しかし正規料金よりは数倍割高の現金で話をつけ、降ろした多くの荷物を新たにチェックインするためにターミナル内に走り込みました。
ガイドブックには「白タクが多いので注意!」などと表記されますが、具体的にどう注意するか、そこが明記されていなければ役に立ちません。そんなものはただのスローガンです。
ではどうすればいいか? 正規のタクシー運転手はタクシーの中で客を待っています。絶対に車を降りて客引きなどしません。観光客を見て“Taxi?”と声をかけてくる者は100%白タクで、下車時に法外な料金をふっかけてきます。繁華街でよくある飲み屋の客引きと同じ。
とにかく向こうから声をかけてきたら無視して通り過ぎて、正規のタクシー乗り場を探すことです。街中で話しかけてくる人も怪しい。そちらに気を取られているうちに、グルが反対側からバッグの中を素早く物色します。海外で歩行中に他人が話しかけてくることなどあり得ません。「スカートにケチャップがついてるよ」などと言われて、えっ?と振り向いて足を止めた途端にバッグを引き抜かれた、とかね。これも実地に演習が必要かもしれません。
白タクに限らず、それが不法行為であっても犯罪であっても、個人主義が根付いている社会では、誇りを持って自分の生き方をまっとうしようとする考えは強いです。犯罪者にも犯罪者の論理と倫理があります。
こちらが「お前のやっていることは犯罪だ」と糾弾しようものなら、「俺のプライドを傷つける奴は許さん」と反撃を食らうことは必至です。
極めて妙な話ですが、犯罪者は「俺はプライドを持って犯罪をやっている」と思います。それは「犯罪に至るには、差別があった、社会的な福祉が足りなかった、より良い職に就けなかった、だから俺は自分のやり方で生きているのだ」とでも理由を並べ、自己正当化をした上での犯罪ですから。
私は従前の経験から、明らかに相手に落ち度がある場合でも(落ち度どころか犯罪であっても)それを直接指摘して改善させようと試みると、とんでもなく理不尽なしっぺ返しが来ることを学んでいます。
これは個人主義が強い社会ではある程度共通する概念かもしれません。
警備員も明らかに白タクが客引きをしているところを見ても介入しません。私はこれを、白タク程度で稼いで生活の糧が得られているなら、それ以上の重大犯罪は起こさないだろう、と踏まえて見逃しているのではないかと推察しています。個人主義の光と影ですね。つづく